相続人がいない場合の対応 ~相続財産管理人の選任~

目次

1.   はじめに
2.   相続人の調査
3.相続財産管理人とは
4.相続財産管理人を選任することの実益
5.相続財産管理人の選任・管理手続の流れ
6.令和3年民法改正
 6-(1) 令和3年改正について
 6-(2) 問題の所在
 6-(3) 改正の要点
 6-(4) 経過措置

1 はじめに

高齢居住者の多いマンション管理組合からの相談で,高齢のマンションの所有者が死亡してしまったが,相続人が分からず,管理費等を誰に請求していいかわからない,といった相談を多く受けます。

このような場合にどのような対応をするべきかについて,ポイントを絞って解説していきます。

なお,最後に令和3年民法改正について関係する部分につき少し触れます。

2 相続人の調査

弁護士の職務上請求を利用して,亡くなった方(「被相続人」といいます。)の住民票除票,現在戸籍,原戸籍等を調査して相続人が誰なのかを調べます。
また,被相続人が亡くなった住所地を管轄する家庭裁判所に対して,相続人の相続放棄等の有無の照会をすることができます。この手続を行うことで,相続人が相続放棄をしたのかどうか等を調べることができます。

これらの調査の結果,相続人がいない,あるいは相続放棄をしたため相続人となる者が誰もいないということになれば,被相続人の財産の帰属主体が存在しないことになります。

そうなると,誰も被相続人の財産を処分できず,放っておくとマンション管理費等の未納が増加していくという事態となってしまいます。このような状態を解決する一つの手段が相続財産管理人の選任になります。

3.相続財産管理人とは

相続財産管理人とは,家庭裁判所の審判によって選任され,相続財産の管理と調査・換価などを行う者で,通常はその地域の弁護士が就任します。相続人がいるかどうか明らかでない財産は法人化(財団化)するので,相続財産管理人はこの財団を管理する立場となります。
 

4.相続財産管理人を選任することの実益

裁判所の許可を得て相続財産管理人が管理不動産を任意売却,あるいは相続財産管理人を相手にして競売申立てをし,当該不動産を処分したりすることで,当該物件に新たな居住者が出現することになります。

そして,相続財産管理人が管理不動産を売却する場合には,その売却代金から滞納管理費等が精算されることが通常ですし,そうでなくとも管理不動産を買い受けた者は,管理費等の支払い債務を引き継ぐことになります(区分所有法8条)ので,管理組合は,この不動産の買受人から滞納管理費等を回収することも可能です。いずれにしても,買受人が出現することで今後当該買受人から毎月の管理費等を徴収していくことになります。

相続財産管理人を選任することには,管理費等を通常通り徴収することができる状態に戻す,という狙いがあります。

5.相続財産管理人の選任・管理手続の流れ

一般的な手続の流れは以下の通りとなります。ケースバイケースですが,権利関係の確定に最低でも10か月間を要することになり,状況次第ではそれ以上の期間がかかることもあります。


利害関係人(管理費等滞納解消目的の場合,債権者である管理組合になります。)又は検察官による相続財産管理人選任の請求・申立て
            ↓
家庭裁判所による財産管理人選任の審判
家庭裁判所による相続財産管理人選任の公告
            ↓ 2ヶ月経過
相続財産管理人による相続財産の調査.財産目録の調整             
不動産の登記名義人の表示変更(名義:亡○○相続財産)
相続財産管理人による債権者,受遺者への請求申出の催告,公告
            ↓ 2ヶ月経過  
相続財産管理人による債権者,受遺者に対する弁済   
(但し,弁済原資があれば)
            ↓
なお相続人の存することが明らかでない時は,相続財産管理人又は検察官による相続人捜索の公告請求 .
            ↓
家庭裁判所による相続人捜索の公告
 
            ↓  6 ヶ月以上
公告による相続人不存在の確定(公告による除斥)
            ↓   3 ヶ月以内
特別縁故者(相続人不存在が確定した場合に,清算後の相続財産の全部または一部を与えられる者で被相続人と特別の縁故があった者)からの相続財産処分の申立て
            ↓
特別縁故者からの相続財産管理人の事情聴取
            ↓
家庭裁判所からの相続財産管理人に対する通知と意見聴取
            ↓
特別縁故者に対する家庭裁判所の調査,審問
            ↓
特別縁故者に対する相続財産処分の審判
            ↓
相続財産管理人に対する報酬付与の審判
            ↓
相続財産管理人による残存財産の国庫帰属(但し,残存財産がある場合)
            ↓
          管理終了


※もっとも,現実には残余の財産の国庫への帰属まで管理がなされることはそれほど多くはないです。むしろ相続人となる人がいたものの被相続人の負債が多く,全員が相続放棄をしてしまい,結果的に相続人が誰もいなくなった事例が多いため,管理不動産が任意売却または競売で処分されることによって資産換価終了となり,その後の相続人捜索の公告の申立等の手続きを経ずに管理終了となるケースが多いです。

6.令和3年民法等改正

(1) 令和3年改正について

所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直しとして,民法等一部改正法,相続土地国庫帰属法が令和3年4月21日に成立し,同28日に公布されました。相続登記の申請義務化や共有制度の見直し,相隣関係規定の見直し,相続土地国庫帰属制度の新設など多くのインパクトのある改正が行われました。
今回の改正の中で,財産管理制度の見直しも行われ,上記で説明した相続財産管理人の制度にも変更がありましたので,以下でその点に絞って少し解説を加えます。

なお,令和3年12月に法務省から所有者不明土地関連法の施行期日についてのアナウンスがあり,財産管理制度の見直しに関する施行日は令和5年4月1日と定められました。

(2) 問題の所在

上記で説明をしてきた相続財産管理人の選任を行う制度は,公告手続を同時にできないため,権利関係の確定に最低でも10か月を要することになります。そのため,相続財産の清算に要する期間が長期化し,必要以上に手続が重くなるという問題点がありました。

(3) 改正の要点

ア 期間の短縮

そこで,令和3年民法改正では①選任の公告と②相続人探索の公告を統合して一つの公告で同時に行うとともに,これと並行して,③相続債権者等に対する請求の申出をすべき旨の公告を行うことを可能にしました(新民法952Ⅱ,957Ⅰ)。
これによって,権利関係の確定に最低限限必要な期間を合計6か月に短縮することが可能になりました。     
      
イ 名称の変更

職務内容に照らして,相続人のあることが明らかでない場合における従前の「相続人財産管理人」の名称は「相続財産の清算人」に変更されます(新民法952条,936条)。
これは,新たに相続人はいるが管理をしないときに選任される相続人以外の「相続財産管理人」(新民法897条の2)と名称を区別するためです。

(4) 経過措置

新法・旧法のいずれが適用されるのかは,選任時が基準になります(附則4Ⅳ)。